大乗仏教について――中国の草木成仏論と日本での発展

日本仏教史―思想史としてのアプローチ (新潮文庫)
PP.170-171

中国における草木成仏の論拠は、衆生と草木の相互関連性、あるいは「空」の絶対の立場からみた両者の同質性に求められている。(中略)
あるいは、仏の絶対の立場からみると、全世界が平等に真理そのものであって、そこでは衆生と草木との区別もなくなるという観点から草木成仏がいわれる。

このような中国での草木成仏論は、日本ではまた発展した別の形でみられるようになる。

衆生との関係や空の絶対の立場を離れて、一本一本の草や木がそれぞれ自体で完結し成仏しているというものである。ここでは仏の絶対の立場からみるという前提がきわめて弱くなり、平等の真理性といういわば抽象的な次元ではなく、個別的具体的なこの現象世界のいちいちの事物のあり方がそのまま悟りを実現しているという面が強くなる。

かくして、草木成仏論、ひいては本覚思想は、堕落の仏教に繋がる道になった面があった。が、鎌倉仏教以降、良かれ悪しかれ、本覚思想の影響は免れることはないが、本覚思想を中心として、思想的な発展があったと著者は紹介する。今後はその点をまとめる。