小説家を見つけたら

小説家を見つけたら [DVD]

  • 小説家を見つけたら』は、文学や音楽またはショーン・コネリーのファンにとってはたまらない作品だろう。
  • ウィリアム・フォレスト(ショーン・コネリー)は、40年前に処女作がピューリッツアー賞を受賞するも、以降一切本を出版せず、まるでサリンジャーやピンチョンのような隠遁生活を送っていた。彼の日常は、外の風景を望遠鏡で観察し、鳥たちをビデオに撮り、窓ガラスを掃除すること。と同時に、彼の望遠鏡は、バスケットが上手い黒人の少年ジャマール・ウォレス(ロブ・ブラウン)を常にとらえていた。ジャマールは本来、成績優秀、本をたくさん読み文章を書くような少年だが、仲間たちと一緒に行動するために、それらを隠していた。そのうち、ウィリアムとジャマールは、ウィリアムの一方的な視線の関係から、相互に認識する関係へと以降するだろう。
  • 師弟関係や友情を描いた作品だ、というのが世間一般の評価だろうし、むろん間違いではないものの、みどころは、監督ガス・ヴァン・サントによる演出である。特に音楽は、マイルス・デイビスオーネット・コールマン、ビル・フリーゼルなどを配し、さらに近代・現代文学へのオマージュもおしみなく挿入する。なんと正統的な文学だろうか、と映画に対していうのも変だが、そうとしかいいようがないところが凄い。具体的には、物語の冒頭、ポーにかんする授業風景をもってくるなど、かなり渋めの、しかし的確な選択(ポーの代わりに、例えばシェイクスピアをもってきたら陳腐になるし、かといってヘミングウェイをもってきても同じだろうという意味で)が素晴らしい。
  • しかし、いちばんの見所は、やはりショーン・コネリーだろう。初代007の彼の演技は、もはや黙って立っているだけでも「幻の大作家」だ。新人ロブ・ブラウンも、サー・トーマス・ショーン・コネリースコットランド民族党の熱烈な支持者なのに女王からサーの称号をもらっている)を前に、臆することなく素晴らしい演技をしている。キャスティングの勝利は、監督の能力と相関するというのが、ここでも証明されているわけだ。