断片

  • 本州では春だなんだと言っているが、北海道札幌市は今日も雪が降った。さいきんは最高気温が10℃だったりと、わりに落ち着いた天気だったのに、やっぱりこうなるわけ。下手したら4月にも降るよ。凄く理不尽で差別されているみたいな気分になる。と、大げさに見えるだろうけれど、本当に。
  • 絲山秋子さんの『イッツ・オンリー・トーク』(文春文庫)を初めて読んだ。驚いた。表題作は文學界新人賞を受賞したデビュー作で、当時から蒲田が舞台だということも知っていたし、選考委員の評も読んでいたのだけれど、作品そのものは読んでいなかった。なぜ読まなかったのかというと、あまりにみんなが褒めていたから。そうして今になって読んでみたら驚いたわけだ。
    • まず冒頭からして秀逸で、たとえば「引っ越しの朝、男に振られた。寺井という、みっともない、なんのとりえもない男だったが、私を好きだと言うのでぬいぐるみのように車にのせてあちこち連れ回っていた。オートマ免許だったから私の車の運転さえできなかった。二週間前に京都に旅行したときは友だちにも紹介していた。私なりに公認を出したのだ。それが突然、というか、電話の線をまさに抜こうとしているところに『別れよう』ときた。ああ、いやだ、だからだめ男はいやだ、だめ男ばかり好きになる自分が嫌だ」なんてところはちょっと真似できない凄みがある。「だめ男」がいかに「だめ」かを言うのに、「オートマ免許だったから私の車の運転さえできなかった」を出してくるあたりにリアリティがあるし、読んでいて少し笑える。その笑いさえ、私たちが酷い目にあっている人の体験を聞いているときに、真剣な顔をしながら心の中で笑っている感じによく似ていてリアリティがある。鬱や精神病を患っているものが、自身を語る際のスタンスとしても、これ以上ないとおもわれる自意識のききかただ。
  • と、いうか、絲山さんのデビュー作を読んで、新人賞を目指す人はかなり気落ちしたのではないか。私は小説を書かないけれど、もし私がそういう立場ならそうなるもの。