『チェーホフの手帖』アントン・チェーホフ著 神西清訳(新潮文庫)

  • われわれは卑屈と偽善とでへとへとになっている。
  • Nは或る病気の研究、その病原菌の研究に一生のあいだ苦闘した。彼はこの闘いに生涯を捧げ、あらん限りの力を尽くした。ようやく死期が迫ったころ突然、この病気は決して伝染するものではなく、ちっとも危険ではないことが分かった。
  • 馬鹿者に褒められるより、その手に掛って討死した方がましだ。
  • 輝くばかりに明るい楽天的な性格。まるで、めそめそした連中をやっつけるために生きているような男。でっぷりして、健康で、大食である。みんな彼を愛しているが、実はそれもめそめそした連中が怖いからに過ぎない。底を割っていえば彼はつまらぬ男である、人間の屑である。ただもう食って大声で笑うだけの男である。やがて彼が死ぬ段になって一同は、彼が何一つしなかったことにやっと気がつく。彼という人間を見違えていたことに気がつく。