自意識は自意識によって征服されるか?

アメリカの夜 (講談社文庫)
阿部和重氏のデビュー作『アメリカの夜』を再読。自意識の小説、と呼ぶことが、もし不正確でないのであれば、この小説は自意識を描いて成功しているといえるし、また、自意識を突き詰めればオーソドックスなところにどうしても回帰してしまうという意味で、この小説は正統的である。
「『アメリカの夜』という言葉は、正確にはフランス語であり、英語でいう'day for night'つまり「晴天つぶし」といわれる疑似夜景をあらわす映画の撮影技法用語であり、一年じゅう空が晴れているカリフォルニアの昼間を、キャメラの絞りと光学フィルターの操作でフィルムにたいする露光を調節して、夜の場面として撮影してしまうハリウッド映画特有の『夜』であるということはよく知られている。疑似夜景、それは『昼』でありながら世界を『夜』にかえてしまう途方もない虚構の企てだ。」