『ボヴァリー夫人』第一部p.31

ある日、三時ごろに訪ねて行った。みんな畑に出ていた。彼は台所にはいったが、すぐはエマの姿に気がつかなかった。窓びさしがしめてあった。板の隙間をもれて陽の光が細長い線を石畳の上に引き、なおその光が家具の角にあたってくだけ、天井にふるえていた。蠅が食卓の上の飲んだあとのグラスをつたってのぼり、底にのこった林檎酒におちこんでブンブンいっていた。煙突から落ちてくる陽光は暖炉の蓋の煤をビロードのように見せ、冷えた灰を青みがかった色にしている。窓と暖炉のあいだにエマが縫いものをしていた。肩掛けをしていないので、あらわな肩の上に小さな汗の粒が見えた。