音と「音」と

レコードはアナログ方式によって音を記録していたが、CDはデジタル方式によって音を記録する。世の音楽マニアたちにとって、これは大きな変化だった。それは記録方法の違いがもたらした結果だし、その結果は主観的にも客観的にも違うことを意味している。

レコードやカセットテープでは、音は、音波の波の形そのままで記録される。このような方法をアナログ記録という。アナログとは「似た物」という意味をもつギリシャ語由来のことばである。 それに対しCDでは、音を記録する方法が根本から異なっている。音は、一定時刻ごとの波の振幅の大きさとして記録される。

さらに具体的な説明も可能だが、音響学的な煩雑さを避けたいのでやらない。ただし、この違いは、大きな違いであることを確認しておけば良い。大雑把にいって、アナログは音そのものを記録するため、人の可聴範囲以上の周波数をも含んで記録されていたが、デジタルとなってから、音は数値に変換され、「音」となって我々の耳に届くようになった。デジタルは元の音の波形を標本化し、それを二進数のビットの単位になおし量子化することで、いわば本来の音の扱いづらい部分を削り取って「音」を記録しているのだ。
したがって、可聴範囲以上の周波数を聴き取れるという説に従えば、音楽マニアたちがデジタルに眉をしかめるのも当然ということになる。本来もっていた豊饒な音は、デジタルでは削り取られてしまっているからだ。
ところで、話は変わって、このデジタルとアナログの話は、実在論と似ているし、そもそもベンヤミンの「アウラ」の話と結びつけると面白いな、あれ、この議論はどっかで読んだぞ、とか、色々思い出しているんだけれど、全然思い出せない。