微妙な失語症

補足というか。

脳梗塞など脳機能の障害が,一時的または持続的に言語の混乱を引き起こすことがある。俗に失語症として知られるものだ。(中略)言語の四要素(読書聴話)のうち特定のものにのみ発現する例もある。聞き取れるが発話できない,会話は可能だが文字はダメ,など。

文中の「聞き取れるが発話できない,会話は可能だが文字はダメ,など」はいわゆる純粋症候群に分類される。だが、立場によってはこれを失語症に含めない場合がある。

ある一つの言語様態のみ選択的に障害された場合は失語ではない。たとえば、仮性球麻痺による麻痺性構音障害や吃音の患者、あるいは喉頭癌の治療として喉頭(声帯)切除術を受けたために発声不能な患者は、話すことはできなくても、聞くことも読み書きも可能である。これらが失語でないことは自明である。

しかしもっと難しい問題がある。話すことだけの障害である純粋語唖(pure anarthria)、聞くだけの障害である純粋語聾(pure word deafness)、読むだけの障害である純粋失読(pure alexia)、書くだけの障害である純粋失書(pure agraphia)という病態がある。

これらは失語を構成する一つの症状だけの純粋症候群であり、いずれも詳細な検査と厳密な定義のうえで失語とは区別されるが、失語とはかならずしも無関係ではない。これらの純粋症候群を、失語の一種と考える立場もあるので注意を要する

失語症の一般的な定義は、

いったん獲得された言語が限局性の大脳病変により障害されるもので、痴呆などの全般的な知能低下や失行、失認、構音障害など、他の機能障害によって二次的に生じているものではない症候群を失語症と呼ぶ。一般に失語症は"話す"、"聴く"、"書く"、"読む"の言語の全てのモダリティ(様式)を障害し、その中核症状は喚語障害にある。

というもので、つまり言語モダリティ全てが障害されていなければ基本的に失語症と考えない。定義はもっと簡潔で要を得たものがあったのだけれど、現在事情により手元にないので、手元に戻り次第上記引用は改変予定。