アマチュアとカースト制

チョムスキー入門
言語学におけるガリレオ的な変革者として名高いノーム・チョムスキーは、9.11以降、日本人にもひろく知られるようになってきた。それは、彼が、本領である言語学のみならず、社会問題について強烈なまでの言論活動を行っていることが知られてきたためだろう。しかし、彼の社会批評家的活動をしめす著作はかなりの点数が翻訳されており、さいきんブームの新書にまでそれが及ぶところをみれば、日本においては言語学者の側面よりも、むしろマイケル・ムーア的な反ブッシュのイメージの方が優先されているとみるべきかもしれない。
本書は、そんな「2人のチョムスキー」の架け橋を渡そうというのが狙いである。
たしかに本書は、様々な逸話やチョムスキーの考え方をコンパクトにはまとめてあり、チョムスキーという人の相貌がうっすらとみえてくる。そのなかでも、以下の対話は実に示唆的だ。
「たしかあなたは、言語学者であって、訓練をうけた政治経済学者ではありませんよね」という問いに対して、チョムスキーは、

これはとても面白い言いがかりだね。正義と真実について語るためには、カーストの中で聖職者に任命されなければならないとでもいうのかね。テストに合格すれば、社会批評家になれるというわけだね

と答えている。むろん、この皮肉は、真実であるいっぽう、あまりにもアマチュアリズムを強調しすぎていることはいうまでもない。けれども、そんなことはどうでもいいことだ。ここで注目すべきところは、そんなことではなく、チョムスキー信仰告白とでもいうべき、普遍的な真理や正義についての信念である。彼は、そういった物事に対する信念があるために、アマチュアである分野*1でありながらも、ものをいい続けているのである。

*1:むろん、そこにとどまることを、彼は、彼自身が許さないだろう。彼は、時にその分野の専門家も顔負けの知識を披露することがある。